腫れを伴う痛み
ついこの前まで、なんの異常もなかったおしりが急に痛くなったということはありませんか?
恐る恐る肛門を触ってみると、なんだかシコリのように硬いものがあり、大きなシコリに「もしかしたらがんでは?」と不安を抱く方もいらっしゃるでしょう。
腫れは放っておくと悪化し、椅子に座ることが困難になる場合や、痛みがさらに強くなってしまう場合もあります。
そのため、診断を受け、適切な治療を行うようにしましょう。
考えられる病気や原因
- 血栓性外痔核(けっせんせい-がいじかく):小さないぼ痔
- 嵌頓痔核 (かんとん-じかく):大きく、腫れたいぼ痔
- 肛門周囲膿瘍:肛門の周囲に膿がたまっている状態のいぼ痔(痔核:じかく)
血栓性外痔核と嵌頓痔核はどちらもいぼ痔の一種で、肛門にある血管に血液がたまって腫れてしまう病気です。
血栓性外痔核は痛み止めや軟膏で
血栓性外痔核は、腫れが小さないぼ痔です。
腫れが小さいときは痛みが少ないため、痛み止めや軟膏の治療でいぼ痔が消えていくのを待ちます。
大豆ほどの大きさになると、かなり痛みが生じてきます。
この場合は、歯の治療で使用するような局所麻酔の注射で痛みをとってから、中に入っている血栓(血豆)を出します。
日帰りで行える治療です。血栓を取り出すと、痛みが嘘のように軽くなります。
切らなくても治る嵌頓痔核も
嵌頓痔核の場合は治るまでに、少し時間がかかります。
いぼ痔の大きさは、そら豆ほどの小さなものから子どものコブシくらいの大きなものまでさまざまで、大きくなるほど痛みが増します。
なかには、椅子に座ろうとしても、腫れているおしりが邪魔になり、生活に支障が出るため、すぐに切ってほしいとおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。
嵌頓痔核というのは、肛門の中にある内痔静脈叢と肛門の外にある外痔静脈叢という両方の血管の部分で血液が固まり、腫れたものです。
これが肛門の外に出て、括約筋とよばれる筋肉に締め付けられ、ますます腫れてしまうのですが、薬の治療を行うことで、腫れる以前の状態にまで戻すことができます。
まずはお薬による治療から
当クリニックでは、なるべく薬での治療をお勧めしております。
たしかに、腫れている状態で手術をすれば、腫れも痛みも軽くなるため、患者さんは喜ぶでしょう。
しかし、手術後は1週間程度の入院が必要になります。
また、手術の傷が治るには、1ヶ月以上の時間がかかるというデメリットがあります。
その点、薬で治療した場合でも、肛門の痛みは対処できますし、1ヶ月後には完全になくなっているというケースも多くみられます。
患者さんのご要望によって手術を行うことも可能ですが、まずはお薬による治療をご提案させていただきます。
肛門周囲膿瘍とは
肛門周囲膿瘍は読んで字のごとく『肛門の周りにできた膿(うみ)のたまった腫れ物』です。
膿がたまる原因は、肛門と直腸との境界線(歯状線)にある10箇所程度のくぼみから、便に含まれる細菌が入り込み、化膿するためと考えられています。
肛門周囲膿瘍の症状
膿のたまり具合によって、痛みの程度や腫れ具合はさまざまですが、多くの場合は数日間かかり、徐々に痛みが強くなります。
初期段階では、肛門に力を入れるとなんとなく痛いというくらいですが、日増しに痛みは強くなっていきます。
膿のたまっている場所が肛門周囲の皮膚直下であれば、そっと触ってみると水を入れた小さな風船のように、プクプクと凹みます。
一方で、膿のたまっている場所が深い場合は、痛い場所全体が硬いシコリのようになります。
肛門周囲膿瘍の治療
まれに、さらに深く直腸の方向に膿がたまると、おしりの外から触るだけではシコリはわからず、ただ肛門の奥がひどく痛みます。
この場合の治療は簡単です。
いくら強い抗生物質を使っても、既に膿がたまってしまっている状態では効果が期待できません。そのため、まずは切開し、膿を出すことを優先します。
膿が出てしまえば、「ついさっきまでの痛みは何だったんだろう」と思うほど、痛みは軽くなります。
その後、抗生物質を用いて治療を続けますが、肛門の中の細菌の入り口と膿が出た切開口の間でトンネルが残り、痔ろうになることも多くみられます。
痔ろうになった場合、痔が浅いものは日帰り手術、深いものは入院手術で治療します。
腫れてなくて痛い
見た目は腫れていないのに、"便をすると痛む"、"肛門に力を入れると痛む"、"長く座っていると重苦しい痛みが生じる" という場合があります。
考えられる病気や原因
- 切れ痔(裂肛)
- 内痔核の腫れや深部の肛門周囲膿瘍
- 肛門の筋肉痛
切れ痔(裂肛:れっこう)
切れ痔は、腫れていなくても強い痛みが生じる代表的な病気です。
肛門が裂けている状態なので、痛みが出るのも当然でしょう。
切れ痔は硬い便をするときに強く痛み、少量の出血がトイレットペーパーにつくことがあります。
括約筋が刺激されるため、排便後も数時間痛みが続くことも特徴の一つです。
また、腫れの原因としては、傷の外側にあたる肛門の出口部分の皮膚が膨らみ、小さなイボが出来ているように見えることがあります。
「この中に切れ痔がありますよ」と教えているようなイボですので、『みはりイボ』と呼ばれます。
そのほか、切れ痔の傷の内側に肛門ポリープができることもあります。
排便のたびにポリープが肛門の外に出てしまい、切れている部分を引っ張るため、ますます傷が広がっていきます。
肛門の外に出たポリープをもとに戻す作業も、痛みを伴います。
慢性的な切れ痔になると、傷も深くなり、肛門が狭くなっていることが多いです。
痛みに長く悩まれることになりますので、早い段階での治療をお勧めいたします。
傷が浅い場合は、ほとんどが薬の治療で治ります
当クリニックでは便を柔らかくし、傷の治りを促進する軟膏が傷に付くように肛門内に浅く注入することで治療をしています。
切れ痔が慢性化し傷が深くなっている場合や、みはりイボ、肛門ポリープができている場合は、薬の治療を続けても治らないことが多いため、手術によって治療を行います。
手術といっても、大部分が日帰り手術で可能です。なるべく早く痛みから開放されるためにも、まずはご相談ください。
内側のいぼ痔(内痔核)の腫れや深部の肛門周囲膿瘍
切れ痔と異なり、痛みを肛門の奥に感じるという特徴があります。
いぼ痔の腫れが肛門の外側まで広がると、嵌頓(かんとん)痔核という肛門にある痔の血管の部分で血液がたまって腫れた状態になります。
肛門周囲膿瘍も皮膚の下まで広がってくればシコリとして触ることができますが、症状が悪化するまでは外見上には異常が見られないため、いずれも治療の開始が遅れることにもなりかねません。
診断
専門医が指で診察すれば簡単に診断ができるので、痛みがひどくなる前に受診することをお勧めいたします。
肛門の筋肉痛
厄介なのは、肛門の筋肉痛の場合です。
「一日中パソコンに向かって入力している」、「タクシーの運転をしているので、ほとんど座ったまま」などという、職業的に長時間座ることの多い人によく見られます。
原因は、肛門を支えている筋肉が疲れることで起こります。
四本足の動物から二足歩行に進化してきた人類は、重力に逆らって肛門を持ち上げている筋肉が必要となりました。
この筋肉を『肛門挙筋』といいます。
肛門の筋肉痛の場合、この筋肉を長時間緊張させていることから、疲れによって痛みが生じるのです。
薬と生活習慣で直していきます
痛みがあまりに強い場合には、鎮痛剤で症状を和らげます。
痔の血管に血液が停滞し、重苦しい痛みが加わることもあります。
治療法は、生活習慣を工夫し、長時間座り続けないようにすることが基本となります。